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あの日に帰りたい(フラッシュバックにご注意)




男とホテルを出て、新宿の駅に向かった。
どの道を通って行ったのか記憶にないが、気が付くと駅の切符売り場の前だった。

男は私の切符も買い、山手線に乗った。
車内は、それほど混んではいなかったが、立っている人も結構いた。
男が空いた席に座り、私にも座れと促した。
その言葉を無視し、私は出入り口の脇に立った。

暫くして男が降りる駅に着き、去り際に
「明日、ちゃんと来るんだぞ」と言ったが、私は無視をした。

男が居なくなって急に、車内の人たちが私を見てるような気がしてきた。
(この人、不倫してるのかしら)と疑われたかも知れない。
何となく自分が恥ずかしいような気持ちなって、居た堪れない気持ちになった。

そう感じてからの記憶が、未だに丸ごと抜け落ちている。

次の記憶が残っているのは、自宅のアパートの玄関の前だった。
玄関を開け、部屋で横になっていた兄が、私を見て飛び起きた。

「みぃ!顔が真っ青だぞ!何かあったのか!?」と大声を出した。
その声で目が覚めたように、私は言った。
「・・・強姦された」


***************************************



私のように、事件直後、人に告白するケースは余りないと思う。
私が聞いたり読んだりした限りでは、身近な人に長いこと告白できない人が多いように思う。

何故、私が直ぐに、恋人、父、従妹に電話したのか、
自分でも未だによく分からない。

何となくだが、きっとみんな驚いて心配したり悲しんで慰めてくれることを期待していたからも知れない。
それとも、みんなの声を聞きたかっただけなのかも知れない。

とにかく私は、真っ先に恋人に電話して、自分があの男に強姦されたことを話した。
誰よりも一番、声が聞きたかったのが恋人だった。
彼は絶句してたと思う。
そして、翌日会う約束をして電話を切った。

その後、父に話し、従妹に話し、
1時間ほどしてから父と継母がアパートへ来た。

父たちと今後の話し合いをしたが、父は「知り合いからのレイプは、判例からいっても難しい」から、
一日も早く忘れて、新しい人生を生きなさいの一点張りだった。

弁護士へ相談したいと言っても、
「相談だけで幾らかかると思ってるんだ」と取り付く島がなかった。
結局、当事者同士で示談するしかない、という父に説き伏せられた形になってしまった。

「病院に行けよ」と言い残し、父たちは帰って行った。
私は帰り道、ショックを受けた父が、どうか事故に遭いませんように、と祈っていた。




***********************************



翌日の9時をまわった頃、家の電話が鳴った。
私が受話器を取ると、バイト先の社員Aさんだった。

「どうして今日、お休みしたの?顔が見れなくて寂しいよ」

この人が何故、私の自宅の電話番号を知っているんだろう。
それになんで、この人は馴れ馴れしい口調で話しているんだろう。
この人は事件前、仕事中に私と写真を撮りたいと言って、
会社のカメラで勝手に私の肩に手を回し写真を撮ったことがある。

その時から気味が悪いと思っていたが、まさか電話までしてくるなんて。

適当に返事をして、電話を切ったが、
それからまた数十分して、また電話が鳴った。

何度目かの電話に出てみると、父からだった。
「今、男のところに電話したらよ、お前が誘ったって言ってたぞ!どっちが本当なんだ」
父の声は、私を叱っているようだった。
何を言ってるのか訳が分からなかったが、どうやら父は私を疑ってるようだ。
「そんなの嘘だよ!誘うわけないじゃん!」と言い返すと、父は黙り、また電話すると言って切った。

その後も何度か電話が鳴り、
私は直感的に、加害者の男からだと思った。
電話に出ず、無視をしていたが、十分ごとに鳴る電話に恐怖を覚え、
電話線を引っこ抜いた。

この日、恋人と会う約束をしていたので、
こちらから電話をかけ、その後はまた電話線を抜いていた。



*****************************************




恋人と待ち合わせ、いつも二人でデートをしていた馴染みのある町を
行く宛なくぶらぶら歩いた。

空が暗くなった19時頃だと思う。
ひと気のない住宅街の路で、彼が思い詰めたように立ち止まった。
そして私を力いっぱい抱きしめ、私も彼を抱きしめた。
彼は私にキスし、暫くずっと抱き合った。

時々、そばを人が通ったが、
お構いなしに彼は抱き合ったまま下半身を私に押し付けた。
「良かった・・・。立って・・・」
ふざけた感じではない、独り言のような本心から出た言葉のようだった。

「もう離したくない」
彼の気持ちと一緒だった。
「あたしも離れたくない」
「一緒に俺んち帰ろう?」
私も彼を見つめて頷いた。

彼の家へ向かう電車の中でも、
「もう、みぃはずっと俺のそばに居るんだよ。どこにも行っちゃ駄目だよ」と、
私を包むように手を握り締めてくれていた。














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境界性人格障害・レイプによるPTSDの患者でした。
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08年、社会復帰したので、本格的にレイプと闘う気持ちになりました。
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